強く生きる

HiGH&LOWと山田裕貴関連用。本業はオタクです。

映画「あの頃、君を追いかけた」先行上映 ネタバレ感想

先行上映@仙台にて観てきました。観終わってから台湾版を観ようと決めていたのですが、その前に日本版を1回だけ観た状態での感想を残しておきたいので書きます。ネタバレありなので鑑賞後推奨です。正直にプレゼンすると、前半だるいけど終盤の素晴らしさでひっくり返すので観終わった後の満足度は高いし、おすすめしたいのは「君の名は。」より「秒速五センチメートル」が好きな人。わたしもそうです。母数少ない!
なお、仙台は大人になってからは2回目なのですが、前回素直に牛タン食べてきたら複数の出張族おじさんに「仙台は寿司!!!!」と力説されたので、総滞在時間は4.5時間だったんですけど映画前と映画後で2回食べてきました。仙台駅に直結してる範囲だけでもちゃんとしたカウンターのお寿司屋さんがたくさんあって驚きました。一番好きな光りものが充実してておいしかったー!仙台で食べるべきは寿司です。買うべきはシソ巻きくるみです。

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・きみおい先行上映仙台おわ。正直言って序盤は世界観がふわふわしすぎてていまいち引き込まれないんですが終盤、一気にパズルのピースがはまるように、振り返って見る日々の愛しさと尊さと、それに手を伸ばす浩介のからりとした寂しさにぶん殴られたのとほっとしたのとでびーびー泣きました。

・きみおい、わたしも半端な田舎育ちの冷めた優等生だったので真愛の気持ちは最初から最後まで「わかる」なんですけど、浩介がよくわかんないんですよね。世界の凹凸に自分がはまることができなくてひたすらに焦れてもどかしいことはわかるけど、肝心の世界の方がいつどこのどんな世界か曖昧すぎて、明確に作中で時代も場所も固有名詞がでてくるのに、どこなんだここは感がすごかった。さらに構成上、最初分かりづらいところがあるので余計に???なんですけど、最後の結婚式からの展開がもうめちゃくちゃによかった…もうほんとうにめちゃくちゃほっとしました。

・良かったことを確認した今だから言えるけどこの作品がつまんなかったら、面白くなかったらどうしようってまる一年ずっと悩んでたので…はーよかった ほっとした

・わたし喪失の物語に弱くて、小学生の時にマディソン郡の橋を観て大号泣したぐらい自身の経験に無関係に刺さってしまうんですけど、時間が不可逆である哀しみ、それでも振り返った時に遠くなってしまった日々の美しさ、二度と辿り着けない場所への郷愁、キミオイの終盤にはそれが全部詰まってた。


終盤、結婚式からの展開が最高に素晴らしかった。それまでの物語で観客にも、そしておそらく浩介(山田裕貴)と真愛(齋藤飛鳥)にも分かっていなかった、どこですれ違ったのか、どこが世界の分岐点だったのが手品の種明かしのように明かされる。欠けていたピースがぴしりと嵌って、完成されたもう一つの世界が、だけどその瞬間に永久に別たれてしまう。新郎にキスプレイした後、涙をこぼす真愛に向けた笑顔が言葉にできないぐらい最高だった。以前山田裕貴が持って生まれた天性の雰囲気は「いつも足りない何かを探している感じ」じゃないかと書いたんですが、その探していたものが目の前に現れたら、そしてそれを自分は永遠に手に入れることができないと知った時には、こういう顔をするのかと思った。この顔がみれて良かった。孫ちゃんの、この持って生まれた業のようなものがぴたりと物語の世界にはまる瞬間を見たくて追いかけてるようなものです。

こっからエンドロール終わるまでひたすらギャン泣きしてたのでちょっと色々曖昧なんですけど、そこから作家としてこの物語の話を書こう、という終わり方もすごい刺さりました。わたしは結局物語を生み出す人とその業が好きなので…もしも浩介が真愛に追いついていたら、もしも幼稚さを捨てて彼女にふさわしい人間になっていたら。パラレルワールドの浩介は物書きにはなっていなかったと思うんです。なぜ物語を書くのかといわれたら、それは自分が手を動かさなければ、この世界のどこにもその物語は存在しないからで、人間は持っていないものを求めるようにしか生きられないのと同じように、持っていないものを求めるためにしか物語は紡げない。そういう、自分が信じているものを肯定してくれるようなラストを、たった二年とはいえここずっと追いかけてきた人間が体現してくれたらそりゃもうおばあちゃんは大号泣ですよ…。エンドロールで推しの名前が真っ先に来て、その後もたくさんのスタッフやら協力企業やらがずーっと流れてるのを見るのは感無量です。Vシネだと一瞬で終わっちゃうからね!
ちなみにエンドロールは星空をバックに文字が流れる、というデザインだったんですけど始まりにひとつ流れ星が流れて、そこまでめちゃくちゃに感動してるのに、えっ流れ星ダサッと笑ってしまい、でもエンドロールみながらまたびーびー泣いてたらまーた最後に流れ星が流れて、そのダサさのダメ押しに泣きと笑いが一緒にきて大変でした。そのダサさも愛おしく思える出来で良かった。

序盤はねー、結構観ててもどかしかったです。浩介は空回りキャラだし、孫ちゃんも割と空回りキャラで、わたしは空回りしてる人をみるとあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っていたたまれなくなってしまうタイプなのであんまり楽しくないし。あとどんな理由があろうと授業の邪魔するような人間は嫌いなのだわ…もうちょっと浩介の所在のなさの理由が作中にあればよかったんですけど…小道具で匂わせてるんだろうなとは思うんですけど、カンフーや文学部を選んだ理由とか、天パ証明書を出さない理由*1*2とか。序盤はテンポも悪いです。最後の演出のためにあえて飛ばされてるシーンがあって意図的な構成でもあるとは思うんですけど、淡々と進む個々のエピソードが繋がってなくて話が見えにくい。浩介が自分という人間の輪郭がわからなくて、世界という枠と自分というピースをはめることができずに焦れていることは推測としてわかるんですけど、肝心の「世界」の方があまりにふわふわしているので、結果的に浩介の苛立ちもぼんやりしてしまって良くわからなかった。その微妙な前半を貫く棒のごとく、物語を成立させていたのは断然齋藤飛鳥ちゃん。わたしあんまり役者に技量とかそういうの求めないというか、圧倒的に「華がある」ことの方に重要性を感じるんですけど、さすが人前に出て、見る人を幸せにするのが仕事のアイドルは違う!すごい!やっぱりとにかく華がある。華が一番大事って八王子ゾンビーズ先生も言ってる。台詞の言い方や表情の動きが巧みかというと素人目でもそんなことはないんですけど、優等生で真面目ででもそんな自分をつまらなく感じている真愛というキャラクターにぴったりだった。以前にどこかで、高校生の青春物語は不器用でままならないのが魅力だから、10代のアイドルや新人が不慣れながらも一生懸命頑張ってる方がしっくりくる、芸達者ではないほうがいい的な話を見かけたんですけどまさにそれを体現してました。「時をかける少女」の原田知世さんが好きで、それ以上に当時の文化人が知世ちゃんに夢中になったのすごい分かりみが深いんですけど、それに近いものを感じました。あと、前半の浩介の分からなさに対して、真愛の気持ちは最初から最後まですごい「わかる」ので、謎のふわふわした世界観でも真愛目線で物語を追うことができたのは良かったなあと。これは自分が女で同じく田舎のつまんない優等生だったからかもしれないですが。さすが大人気アイドルグループだけあって、先行上映の客席は今までの現場で一番若い男性の比率が多く感じたんですけど、男性なら浩介の方にシンパシー感じて、真愛は何考えてんのかわかんねー!ってなるのかなあ。男女で真逆の感想を抱くのならお話としてめっちゃよく出来てるな〜!

真愛が台湾ロケ部分で着てる林檎柄のTシャツが尋常でなくダサくて、事前記事で公開されてから服がダサい優等生設定なの?そうでなきゃおかしくない?ってずっとディスってたんですけどここに関しては完全に手のひらクルーします。すみませんしたァ!このTシャツ、要は浩介からのプレゼントだったんですけど、ダサい上に真愛の普段の服の趣味と全然違うんですよね。そもそも真愛ちゃんはTシャツを着ないタイプだ。多分ぜったい真愛も心の中のどこかでは、えっこの服趣味じゃない…って思ったと思うんですよ。男で服の趣味が変わるタイプでもないし。にも拘わらず、浩介と会う時に毎回ちゃんと律儀に着てきてくれるのはどれだけ真愛が浩介を好きでいてくれたか。天下一武道会の時にこのダサTにこれまた趣味じゃなさそうなデニムを合わせているのは、どれだけアウェイに感じる場所にそれでも浩介のためにやって来てくれたのか。浩介は全然わかってない。気に入ってくれたんだ♪ぐらいにしか思ってない。いやわかってなかったっていう話なのでそれでいいですけども。橋で天燈を飛ばす前、「ずっと好きでいさせてくれ」って言い出した時はあまりの目の前の相手への向き合ってなさに、真愛ちゃんそいつ今すぐ橋から突き落として!って思いましたもん。ないわー。まじ浩介は川に沈んでこい。ここ、ちゃんとラストで回収されるんですけど、最高の演出だった。ほんの数歩、前に進んで真愛の横に立てば、真愛の角度から見れば答えはそこにあったのに。この時、浩介も一度真愛に貸して、期せずして林檎Tと交換するように返してもらったTシャツを着ていて、二人のお互いへの思いのいくらかは確かに重なっていたのがまた切ない。いくらかは重なっていたけど、でもやっぱりその林檎Tシャツは真愛の趣味じゃないんだ。

さて、大体いいところ褒めたんで、こっからトンチキパートにつっこみいれていいですか?観てないから憶測で話しますけど、、、台湾だからあり得る設定そのまま持って来すぎ~~~!

作中ではっきりと時代は2008年北京オリンピックの後、場所は南アルプスのどこかと示されてるにも関わらず、まじここはどこでいつやねんっていう感触が割とずっと続きます。軍隊みたいな女教師とか、盗難事件時の学校の対応とか、廊下でスクワットとか、卒業式の後にセンター試験とか、とにかくじわっと変でいちいち引っかかるんですよ。日本っておそらく世界で一番、学生時代を舞台にしたフィクションが多いのではないかと思うのですが、それって狭いながらも超長い日本のどこでも大体似たような学生生活が営まれていたり、さらにそれに基づいた作品が量産され続けていることで生まれる共通したコンテクストの上に成り立っていると思うんですね。良くも悪くも、観客にはその固定観念があるのに、良い意味での裏切りではなく単なる違和感になってしまってたのは残念だなあ。
学校描写もなんですけど、前期試験終わって合否発表の前、つまりどう遅く見積もっても3月なのに海行って夏服で遊ぶのは本当にどうした。ここはセカンドインパクト後の世界か?!(南アルプスです) この海が一番引っかかっちゃいました。このシーン、おそらくですけど受験の結果が分かる前に、高校生がお小遣いで行けてお金がかからない範囲で、でも最大限に受験だの進路だのといったものから離れた場所で、不確定な未来の話をするのが本質であり、行き先が海であるとかみんな夏服を着ているとかは本質ではないじゃないですか。南アルプスから海ってめちゃくちゃ遠いで?!知らんけど時間もお金もかかるやろ!太平洋側に行っても3月の海ってこんな半袖やノースリで遊べないし。近場の諏訪湖で冷たい!凍る!っていいながら水遊びするんじゃダメだったのか。
思わず台湾版のロケーション確認したら舞台の彰化という街はやっぱり海が近いところみたいで…あと、彰化からヒロインが進学する台北までって、特急列車で1時間半、3000円ぐらいなんですね。日本版では浩介は長野県内、真愛は東京に進学するんですけど、家が裕福でもバイトしまくってるわけでもない浩介にとって結構きつい距離なはずなのにその距離感が全然ないんですよ。新幹線なら1時間半だけど8000円かかるし、バスなら3000円だけど5時間かかる。台湾版の立地を確認して、あー1時間半・3000円の距離感だわってすごい納得しました。秒速~好きな人におすすめって書いたんですけど、新海誠監督は二人の距離と速度差に変態的にこだわり続けてる人なので比べたらあかんとは思うんですが、きみおいは速度差の描写はすばらしいのに距離感が変なんですよね…。台湾版に近づけるなら、舞台を熊本と福岡にしたらあかんかったんか、とか考えたんですけど、wikipedia先生の彰化のページ最後まで読んだら長野県と彰化県が友好提携してるらしくてあーーってなりました。あーーーーはいはいなるほどね!!こういうの、でもそれがなければそもそも企画が生まれなかったという側面もあるだろうだけに本当にせちがらいですね。不自然な箇所が全部台湾版に準拠したせいだったとして、リメイクである以上、大人の事情で自由に作れなかった可能性もあるからなあ。客からしたら1ミリも知ったことではないんですけどね。

くどくどとつっこみましたけど高校卒業したあたりからは世界観への違和感は割と気にならなくなります。これは観る側に大学生活には高校ほど固定観念がないからなかな。南アルプスに帰省してきた次の瞬間に台湾に瞬間移動してるびっくり案件も、その後のシーンがいいから許します。許しました。富士山の辺りとか、太平洋につながってる(と言われている)穴とかいっぱいあるしな。南アルプスと台湾がつながってても不思議じゃない。そうだね。
そしてやっぱりラストの、浩介と真愛が10年かけてたどり着いた終わりと始まりがすばらしい。結局10年ずっとすれ違いを重ねてきた、という話ではあるので前半のテンポの悪さやエピソードのとっちらかり具合に感じるもだもだが、結果として最後のカタルシスをより深めているので、本当に観終った後の満足度は高いです。あえて1回だけ観た状態でこれ書いてますが、回を重ねる毎に違和感は無視するようになるので2回目以降は絶対もっと良さだけを楽しめるだろうなーと確信してます。幽遊白書で、仙水が好きな映画として、本編はすごくつまらないけどEDがとても美しい作品をあげてますけど、やっぱりなにかを「好き」と思えるのって、全体的にバランスがいいのも大事ではあるけど、それよりもなにかひとつ、1シーンでも1コマでもめちゃくちゃに刺さる部分があることが自分にとっては大事なので、心からそう思えるシーンがあって良かった。それに尽きます。

 

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仙台駅直結のエスパルというビルの地下にあるすし哲さんで食べたとろ鉄火。忠臣さんの好きなとろだよ~!

*1:公式SNSの登場人物紹介に「父親譲りの天パだが大人になればストレートになると信じている」とあってそれかよ!そこに書くのかよ!ってなった

*2:9/18追記 完成披露で2回目観たらちゃんと詩子が「子供の頃から天パだけど大人になったら〜」と説明してましたので訂正してお詫びします